人,街,風,ひとつに紡ぐ住まいづくり

 私がクライアント(お客様)の方々からご依頼を受けて設計するのは住宅だけとは限りませんが,どのような建物の設計も基本は住宅にあると考えています.ですからここでは住宅の設計に対して考えていること,大切にしていることから,私の建築設計者としての基本的姿勢を知っていただければと思います.その考えを要約したのが表題の「人,街,風,ひとつに紡ぐ住まいづくり」です.ここで言う「住まいづくり」は,家を新築することだけでなく今まで住んでいた家の増改築なども含め,それまでの住環境を変えることを指します.そしてそれには「人」,「街」,「風」というキーワードで代表される以下のようなことを考慮し,まとめ上げていくことが必要だと考えています.

人

 住まいづくりの主役はいうまでもなくそこに住む人,家族です.そして住まいづくりは暮らしや家族のあり方を見つめ,作り上げていく大切な作業と言えます.でも多くの建て主の方はその家でどういう暮らしがしたいのかということをイメージすることはできても,それにはどのような家がいいのかということとなるとわからなくなるのではないでしょうか.それどころかともすると,あまたの住宅雑誌やきらびやかな住宅展示場を見るうちに,「どういう暮らしがしたいか」よりも「どういう家が欲しいか」に考えがいってしまい,本質を見失ってしまうかもしれません.私の仕事は,お客様の暮らしに対するイメージを実際の住宅のかたちに結びつけるお手伝いをすることだと考えています.(*註)
 また,住まいづくりには実際に工事にあたる人達も重要です.どんな人が造ったのかわからないような家ではなく,関わった人がその技術を発揮し,それゆえにクライアントに対し「私が自信と責任を持って造りました」と言えるような,作り手の顔が見える住まいづくりが大切だと考えています.そして私自身も顔が見える設計者でありたいと思っています.

街

 人々の暮らしが社会との様々な関係の中で成り立っているように,住まいも敷地の中だけで完結するものではなく,街とのつながりの中に在るものです.実際に設計の成果として出来上がる設計図を見ると,配置図には敷地周辺の道路の広さが書き込まれていますが,それ以外はほぼすべて敷地内とそこに建つ建物の情報です.しかし図面には直接表現されていなくても,敷地をはみ出したより広い視野で住まいを考えたいと思います.それは具体的には隣接する家屋との関係であったり,通りを歩く人からの家の見え方や雰囲気であったり,街並みとしての景観を考えるということです.さらにはより広くその地域の環境や経済といった視点から,地場の優れた材料や技術を取り入れることも重要だと思います.
 住まいの設計は,各部の納まり(ディテール)の細かい寸法を検討する微細なレベルから,街の中の存在,さらには地球環境といったマクロのレベルまで,幅広い視野で捉えて考えたいと思います.

風

 住まいが建つ土地にはそれぞれ固有の自然環境,風土があります.そしてその条件を読み解き,住まいとそこでの暮らしに生かすことはとても大切です.建築の大きな特徴のひとつは,それがどれも唯一無二の存在だということです.全く同じ建物を2棟建てたとしても,それぞれ建てた場所は地球上にひとつしかなく,それゆえ2つは同じ建物とはいえません.それほど建築とはその建つ場所との関係が深いものといえます.
 敷地に立ったとき,どの方角にどのような景色が見えるか,どんな木があるか,季節風はどのように吹くか,道路からのアプローチはどうなるか・・・といったことを見極め考えます.そしてプランを考える際には季節ごとにいつどの窓からどれくらい陽が入るか,窓からどのような景色が広がるか,風はどのように吹き抜けるか,屋根から落ちた雨や雪はどうなるかといったことを常に考慮しながら取り組みます.また,それが住み手の暮らしとどのように響き合うかを確かめながら設計の作業を続けることになります.

(*註)この「住まいづくり」の考えについては<山本厚生編著 「住まいづくり」考 萌文社>に多くを学びました.