廊下
比較的小さな家をプランニングする際は,できるだけ廊下のような通路空間を作らないようにします.廊下を経て各部屋があると,それぞれの部屋の独立性は高まりますが,家全体の一体感が損なわれます.小さな家の場合は家族が集まる居間を中心に,そこから各部屋に直接出入りできるようにして,一体感と空間の広がりが感じられるようにします.また,限られた面積の中で廊下をなくすことで各部屋がすこしでもゆったりするようにという意味もあります.しかし,廊下は無ければいいというものでもありません.大きな家で部屋数が多くなるとどうしても廊下が必要になってきます.また,機能が全く違う部屋と部屋を移動する際は緩衝地帯というか気分を変える空間として廊下は有効です.職住が一緒の場合など,住まいから仕事をする部屋に移動する際,廊下を経由して気分を変えるとか,居間から廊下という緩衝地帯を経てトイレに行くとか,そうした役割が廊下にはあります.
この家ではプランニング上,廊下がけっこう重要になりました.それゆえ印象的な空間にしようと考えました.すり板ガラスの天井の上には屋根のトップライトがあり,昼間には柔らかい光が落ちます.夜も白熱灯の光であたたかい雰囲気になります.
廊下の両側に部屋があるいわゆる「中廊下」では昼間でも暗くなりがちですが,この家では途中に2階との吹き抜けを設け,2階からの自然光が落ちるようにして,暗くならないようにしました.また,壁にちょっとくぼんだ飾り棚(ニッチ)を設け,そこに照明を入れることによってアクセントにしています.
この吹き抜けにはもうひとつ意味があって,お母さんのいる台所と2階の子供部屋をつなぐ関係にあります.相互に声が通るような位置に設けてあります.
これはお宿かげやまの廊下ですが,廊下の先は温泉のお風呂です.このような宿にとってお風呂は特別の場所なので,そこにいたる廊下は違う場所に行くんだということを意識できるような意匠にしました.炭坑のようなトンネルをくぐっていく,そんな雰囲気になればと考えました.
もうずいぶん前になりますが,世田谷美術館(内井昭蔵設計)の渡り廊下は印象的でした.廊下の先にやわらかい光が注いでいて,とても感動的でした.もう一度訪ねたい建築です.