地産地消への取り組み
先にご案内していた「地材地消モデル住宅」の見学会は無事終了しました.私は当日,今回の取り組みの中心的な役割を担ってくださった丸善木材さんから朝,20名ほどの方と一緒にバスに乗りこみました.途中,弟子屈中学校に立ち寄り,道産材普及の事業で天板をから松の集成材にした机を見学したのち,美留和の現場に向かいました.雪解けのこの時期,あいにく敷地内は足下が悪い状態でしたが,釧路管内各地から50名ほどの方々が集まるにぎやかな見学会となりました.
一軒の家を建てるには様々なそしてたくさんの木材を適材適所に使用します.今回は出来るだけ道産材を使おうということで,柱や梁,胴差といった主要な構造材に地場産のから松を使いました.105㎜角の柱についてはすべて無垢材のから松です.梁については梁せい(梁の高さ)が150㎜以下のものについては無垢材のから松で,それ以上のものは集成材のから松としました.また,間柱や筋交い,屋根の野地板等もから松の製材です.その他に床の根太や天井下地の野縁,壁下地の小幅板,外壁の仕上げである下見板にはとど松・えぞ松の道産材を使っています.ただし,すべてが道産材ではなく,土台は防腐剤を加圧注入したカナダ産の米つがですし,屋根の垂木もツーバイ材のカナダ産スプルスという木を使っています.
当日配られた使用木材の明細についての資料によると,これら使用木材の合計の材積が22.5立方メートルで,その内,道産材が17.2立方メートルなので,道産材の使用比率は76.3%あまりとなります.実際にはこの他に外部のデッキテラスに使用する材料(カナダ産のツーバイ材),階段の踏み板,開口部の額縁,内部仕上げの合板(道産材のから松)などにも木材を使用しますので,全体での正確な道産材の割合は多少前後すると思われますが,おおむね過半の材料を道産材でまかなっているということは間違いありません.この比率をどう見るかということですが,平成17年度の「森林・林業白書」によると平成16年の用材使用率(国産材の使用率)が18.4%なので,相当高い数字と言えると思います.もちろん,木材は建築資材としてだけではなく他用途に使われているので,建築資材としての国産材の使用率がいくらなのかはわからないのですが,それにしても18.4%という数字はいかに木材の供給を海外に頼っているかということの証だと思います.ちなみに国内自給率でいつも話題になる食料についてはここ数年40%(カロリーベース)となっています.
「トレーサビリティー」という言葉がありますが,狂牛病などに端を発して主に食品の安全性に関連して使われています.一般で売られる商品が流通の過程でどのように流れているのか,小売りの末端から生産者までたどれることが可能なことをいいます.実際,スーパーで食品を買おうとすると,生産地が表示されているのは当たり前になりましたし,私がときどきいく焼き肉のお店でも入り口の黒板にどこの部位の肉はどこから仕入れたかが表示してあります.木材についてもどこの山でとれた木材なのか表示しようという流れが強まっています.この場合,食品と違って安全性というよりも違法伐採をくい止めようということ,出来るだけ地元の材料を消費しようといった環境問題を意識した意味合いが強いようです.裏を返すと木材はこれまで違法伐採されていたものが多く流通していたということを意味します.実際去年の一時期,コンクリートの打設などに使われるラワンを原材料とした合板(通称コンパネ)が品薄になった時期がありました.環境保護団体の働きかけにより,ラワンの生産地であるフィリピンやインドネシアで違法な生産者が取り締まりを受けたことが原因とされています.
こうした違法伐採による木材を排除すること,できるだけ地場産の木材を使うということの流れは今後も強まっていくのだと思います.ただし,から松の流通に関してはまだまだ問題も多く残っています.建築資材として使用するには含水率を下げた乾燥材にしなければなりませんが,高温での人工乾燥には多くの化石燃料が必要で二酸化炭素の発生を伴います.自然乾燥も併用したさらなる乾燥技術が望まれます.また同時に一般に流通するためには価格を抑えること,量産できるための施設をととのえることも必要です.
ことは環境や地域振興の問題であるだけに,行政の後押しも受けながら取り組んでいかなければならないことだと思います.なお,北海道では北の木の家という認定制度により一定量道産材の木材を使うと低利で融資が受けられる制度も始まりました.
今回のテーマは私にとっても重たいものだったので見学会の終了からこのコラムを書き上げるまでに時間がかかってしまいました.しかし,住宅の設計に関わっている以上,木材についてはいつも考えていかなければならないことなので,また折に触れて取り上げたいと思います.