コンサート・ホール
深夜,テレビで井上陽水のライブを見てしまいました.ライブの会場は東京・世田谷区にある昭和女子大学の人見記念講堂でした.このホールはかつて音響がいいことで有名で,クラシックのコンサートが盛んに開かれました.私も東京で大学生活を送っていた頃,一度行ったことがあります.ロシアのピアニスト,スヴャトスラフ・リヒテルのリサイタルでした.人見記念講堂のサイトでは過去の公演記録がありますが,これを見ると私がいったのは1983年1月9日の公演で,私が大学1年生の冬だったことがわかりました.真冬の日が短い頃だったのでホールに着いた頃は暗くなっていて外観の思い出はありません.
村上春樹がエッセイで,とても疲れているときにリヒテルのリサイタルを聴いてとても癒されたといったことを書いていましたが,たぶんそれはさらに先の1981年の演奏のことかと思います.私がリヒテルのコンサートで覚えていることは,貧乏学生にとってはかなり高額なチケット代だったこと,そしてクラシックの曲をあまり知らない頃だったので,プログラムの曲がほとんどわからず途中眠くなったことです.でも,今はチャイコフスキーのピアノコンチェルトとかバッハの平均律など,リヒテルのCDは愛聴盤になっています.
人見記念講堂はキャパシティーが2300席なので,フルオーケストラのコンサートというよりは器楽のコンサートが多かったようですが,当時の公演記録を見るとそうそうたるメンバーで,このホールがいかに重要だったかということがわかります.その当時,日本(東京)にはNHKホールのようにキャパはあっても音響のいいクラシックコンサート専用のホールはなかったからです.その後,東京にはサントリーホールをはじめクラシック専用の大規模なホールができたので,人見記念講堂は今はあまり主要なコンサートには利用されなくなったようです.そのかわり現在「題名のない音楽会」の収録会場になっているようですが.
クラシックのコンサートホールといえば札幌にあるkitaraもすばらしいホールです.最初にこのホールに行ったのはイーヴォ・ポゴレリッチというピアニストのコンサートでした.天井の反射板の下の演奏者とも至近距離の座席でしたが,あまりの響きの良さに感激したのを覚えています.演奏も素晴らしく,ショパンの前奏曲ではおもわず涙がこぼれそうになりました.ホールの内装がおもに木でできていてとてもあたたかい雰囲気です.
もうひとつ,札幌のホールで忘れられないのが厚生年金会館です.私は札幌交響楽団をはじめたくさんのコンサートを体験してきたホールですが,今は存亡の危機にあるようです.
実のところ,ホールでクラシックのコンサートを聴くのがあまり得意ではありません.特に音響のいいホールでは誰かが間違って落としたチラシの床にこすれる音が気になったりします.たまたま近くに座った女性の香水の匂いがきつかったり,隣の席の人が演奏に合わせて拍子をとって靴の踵でコツコツ音を鳴らしたりしても気になります.自分自身も喉がいがらっぽくなって咳がしたくなることもあります.どうにも音楽に集中できなくなる要素がいっぱいあって,得意ではありません.とはいえポゴレリッチの演奏の時のように,得難い経験もあるのでやはり体調と精神状態を整えて行かなければならないのかもしれません.