下見板
北海道の広大で自然いっぱいの敷地では,外壁を板張りにすることが多くあります.ほとんどの場合,板の端部をすこし重ねて横に張っていく下見板張りです.まちなかで敷地いっぱいに建物を建てる場合は法律上,外壁の防火性能が求められるので,可燃性の木を外壁に使うのは難しい場合があります.(絶対できないわけではありませんが,面倒です.)下見板張りは北海道ではお馴染みの技術で,かつての木造校舎はたいがいそうでしたし,今でも残っている古い住宅にもよく見られます.
この技術,起源はヨーロッパで,イギリスの南東部かスウェーデンかどちらかだそうです.それが地球を西回りに大西洋を越えてアメリカ大陸に渡り,さらには開拓民とともにアメリカ大陸を西へ西へと進み,西海岸のカリフォルニアに達します.そして明治政府の招きで北海道開拓の指導のために訪れたアメリカ人と共に太平洋を渡り日本に伝えられたそうです.そうした由来については藤森照信著 日本の近代建築 に詳しくあります.藤森さんの本はどれもそうですが,この本もとてもわかりやすくおもしろいのでお薦めです.
そのようなわけで,北海道にはあの有名な札幌の時計台をはじめ多くの下見板張りの洋風建築が建てられることになりました.先日行った旭川の旧上川倉庫株式会社事務所も時計台同様白い塗装の下見板張りでした.
この春竣工したTY邸でも下見板張りにしています.厚岸町の道有林からとれたとど松を板材にして使っています.塗装はオリンピック・ステインという着色防腐剤を使っています.着色すると同時に木が腐りにくいように保護する役割があります.最初の画像がそうですが,かつての古い民家ではそのような塗料は無かったので,たいがい板は炭化して灰色になっています.これはこれで趣がありますが.木部の塗装は定期的に塗装し直す必要がありますが,今回のTY邸ではそうした塗り替えの時も足場を組むことなく簡単な脚立足場だけでできるようにといったこともあって1階部分のみ板張りにしました.塗装は張る前に裏も表も一度下塗りし,張ってからもう一度塗ります.下塗りしないと防腐効果が全体に及びませんし,木が乾燥収縮したとき,塗っていない部分が白く出てきてしまいます.
日本人の女性ほど基礎化粧品を使うのは世界でも珍しいという話を聞きました.つまり大和撫子はあくまでも素肌の美しさにこだわるようなのです.一方で西洋の女性は,お化粧というのは素肌がどうであれ塗りたくって隠してしまえばいいという考え方のようです.木についてもこの違いは同じで,日本では節などの欠点が少なく木目の美しいのが好まれる傾向があります.したがって塗装も木目を生かした浸透性のクリアー塗装が好まれます.一方,西洋では赤でも黄色でもお好みの色で表面に皮膜ができ木肌を覆い隠されてしまうペンキ塗りにします.場合によっては模様替えの度に塗り重ねた塗装が幾重にも重なっているようなこともあります.古い家も自分たちの手で塗装し直したりする習慣が根付いているということもあるかと思います.もちろん西洋でも木目を生かした生地仕上げの塗装にすることも多いのですが.
ただし下見板張りする板は,あまりつるつるにカンナをかけるのではなく,ある程度ざらざらしていたほうがいいことがあります.着色防腐剤を塗る際,ざらざらしていた方が塗料の染み込みが多く,その分防腐作用が長持ちするからです.それでなくとも直接日に当たり,多少剃ったり割れたり,あるいは抜ける節もあるでしょう.その素朴なところが下見板張りの良さなのだと思います.