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間取りの手帖

不動産広告に載っている変な間取りを集めた本「間取りの手帖」はなかなか楽しい本でした.
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60年代を思わせるなんともレトロな装丁ですが,おそらく本のタイトルからいっても,硬派の婦人向け雑誌「暮らしの手帖」を意識してのことだと思います.

著者は自称・間取り収集家,"Madorist"の佐藤和歌子さんという若い女性です.おそらく首都圏の不動産広告から集めたのであろう99の間取り図が収集されています.戦前に建てられたような3帖一間の時代を感じさせるものから,現代風ビルのペントハウスにあるようなものまで,賃貸物件がユーモアに富んだコメントと共に紹介されています.

北海道の片田舎から東京の大学に進学することになって,最初にしたことが住むところを見つけることでした.大学がある高田馬場駅周辺の不動産屋を廻り,間取り図を見ながらアパートを探し回りました.おそらく4,5件は見て回ったと思います.その時私が思っていたのは,とにもかくにもお風呂付きに住みたいということでした.というのも,高校の3年間,実家を離れ賄い付きの下宿に住んでいたのですが,お風呂が無く銭湯に通っていました.それまで温泉のある家で朝晩お風呂に浸かっていた私にとってお風呂のない生活はかなり堪えていたのです.当時,東京でお風呂付きのアパートに住むというのはなかなかに贅沢なことでしたが,結局西武新宿線の田無という駅から徒歩で15分ほどのところにあるアパートを見つけました.多少駅から遠くてもお風呂付きにこだわったのです.近くに東京大学農学部の農場があるのどかなところでした.最初の家賃は4万円ほどだったと思います.
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これがその時住んでいた部屋の間取りです.もちろん普段の業務ではこのような図面は描きませんが,今回は不動産の広告風にネットでダウンロードできる間取り作成ソフトのお試し版で作りました.1階・2階共にに2部屋の小さな木造アパートでしたが,隣や上の部屋の音がけっこう聞こえるのが苦痛でした.おまけに東側窓も開けるとすぐ手が届きそうなところに隣のアパートの窓がありました.学生の一人住まいとしては広いと思われるかもしれませんが,建築学科の学生は家で図面を描くのにドラフターという大きな製図板が必要だったので,けっして余裕はありませんでした.結局,大学時代とその後就職した時の計6年間をこの部屋で過ごしました.何年か前東京に行った折にこの部屋を見に行ったことがあります.窓の外から覗くと借り手が無く空き部屋になっていましたが,あまりしつこく覗いていると怪しい人に思われそうで,そそくさと立ち去ってきました.

「間取りの手帖」に載っているのはアパートやマンションの一室を切り取ったものですが,これらをながめているとその部屋が収まっている建物全体の様子に思いをはせてしまいます.法規的な斜線制限でこんなルーフバルコニーになったんだろうなぁとか,階段やエレベーターなどのコアはこのあたりかなぁなんてことをついつい想像してしまいます.そして北海道ののびのびした環境にいると,いかにも過密化した都市の特殊解としての間取りばかりのように思います.

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