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2013年02月26日

温熱環境の計画

私が事務所に使っている建物はもともとは「コージィベール摩周南」という温泉付き分譲地のセンターハウスです.豊富な温泉を利用してその熱で暖房しています.これまで寒いと思ったことは無かったのに今年はちょっと事情が違いました.1月の上旬,ものすごく寒い日が続き,部屋が暖まり切らなくなりました.最低気温が連日-25度以下になり,一日の平均気温が-17度といった日が一週間くらい続いたのです.さすがに暖房能力が追いつかなくなったのでした.
厳寒の日の出

建物に必要な暖房能力の計算の仕方を簡単に説明します.まず熱損失係数(Q値)を算出します.熱損失係数とは建物の断熱性能を示す数値で,値が小さいほど断熱性が高いことになります.この熱損失係数を知ることはとても重要で,寒冷地の建物の温熱環境を検討するにはすべてはそこから始まると言っていいでしょう.建物の壁,天井,基礎の部分,窓などの開口部といった部分ごとに断熱性能からどれだけ熱が逃げていくかを積算し延べ床面積で割ることで算出します.計算方法はちょっと面倒です.
熱損失係数がわかったら,次に暖房で目標とする室温(ti)を設定します.さらに建設地の気候から外気温(to)を設定します.建物の延べ床面積をSとすると,必要な暖房能力は
Q×S×(ti-to) (W/H)  となります.
Q:熱損失係数(W/㎡K)
S:延べ床面積(㎡)
ti:暖房設定室温(℃)
to:暖房設計用外気温(℃)

実際に計算してみましょう.
熱損失係数は次世代省エネルギー基準で示されている1.6W/㎡K,延べ床面積が100㎡,室温を22度,外気温を-16度とすると,
1.6×100×(22-(-16))=6080W/H
これに10%程度余裕をみて,必要な暖房能力はおよそ7kW/Hということとなります.石油式のボイラーならこんなのを選択することになります.

私の事務所は住所は弟子屈町ですが,位置的には弟子屈町の市街と標茶町の市街のちょうど中間ぐらいにあります.それぞれ12kmくらいの距離になるでしょうか.標茶町の市街は標高が20m,私の事務所が50m,それに対して弟子屈町の市街は一挙に高くなって100mほどになります.標高からいえば弟子屈町のほうが標茶町より寒いように思われますが,気象庁のアメダスをみていると逆です.冷え込んだ日の気温はたいがい標茶のほうが3,4度低いのです.気象データをみていると弟子屈のほうが風が強い傾向がわかりますが,東西に比較的高い山が迫っている地形なので北からの季節風が集中して通り過ぎるのに対し,標茶は周辺が開けているので風が弱まるのでしょう.その結果,風の弱い標茶のほうが放射冷却が強まって気温が下がると考えられます.もっとも風が強いのもそれだけ建物表面から熱を奪っていく空気が多くなるので,温熱環境的には不利に働くのでしょうが.同じ釧路川沿いの街で距離的にも25キロほどしか離れていないのに,地形によってそんな違いが生じることは興味深いです.私の事務所は地形的には標茶に近いように思いますので,アメダスは標茶の数値が近いはずです.

先の計算では外気温を-16度として計算しましたが,道東でも釧路や厚岸の沿岸部ではその設定でいいとしても,内陸部の標茶町や弟子屈町ではもう少し厳しい数字を使うべきだと思います.標茶では今シーズンは-20度以下の日が12月ですでに8日,1月に14日ありました.2月になってやや寒さがゆるみましたが,2月下旬の今朝もやはり-20度以下に冷え込みました.外気温は-22度くらいの設定で計算した方がいいかと思います.

3年前にBISという資格を取得しました.「北方型住宅」を設計することのできる資格です.それを契機に温熱環境のことについてさらに考えることになりました.もちろん,北海道で住宅の設計をしているのですからそれまでも断熱性能や暖房のことは重要視していましたが,数値的な根拠がないまま感覚的にやり過ごしたり設備設計に任せてしまう部分がありました.BISを取得してからは熱損失係数も自分で計算するようになりましたし,長期優良住宅の設計も3軒ほど手がけました.何年もお休みしていたこのブログですが,長期優良住宅や地場産木材を使った取り組みのことなど,また少しずつでも情報発信できればと考えています.