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2006年06月30日

柿渋

これまで天然素材の材料をいろいろ使ってきましたが,柿渋もその一つです.写真は新築時に撮影した「お宿 かげやま」の和室で,シナ合板に柿渋を塗った仕上げです.
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5月のことですが,妻がたまには温泉につかってのんびりしたいと言うので,「お宿 かげやま」さんに泊まりにいくことにしました.その時に和室を見せてもらったらこんな風になっていました.
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見事な色に変わっていました.この建物が竣工したのは2002年の秋なのでおよそ4年経っています.
この柿渋,日本では古くから使われていて,もちろんその名の通り柿から作られます.主成分は赤ワインの渋みの成分でもあるタンニンというものです.木材に塗ると防水・防腐・防虫効果があるとのことですが,なんといってもその深みのある色が魅力です.
何度か使ったことがあるのですが,注意しなければならないのはシナ合板に塗る際,まれに黒い斑点が出ることがあります.原因はよくわかりませんが,柿渋は鉄分と反応すると黒くなるそうなので,合板の製造過程でなんらかの鉄分が付着していたのかもしれません.もうひとつ,塗った後しばらくは独特の臭いがします.けっして有害なものではないのですが,あまりいい臭いともいえません.ですから室内に使う場合で,施工後に時間をあけられない場合は注意が必要です.
今回は泊めていただいたついでに各室をひととおり見させてもらいました.木をふんだんに使った建物なので,ところどころ収縮や割れなどの経年変化した部分がありましたが,全体に手入れが行き届いていて大切に管理されていることがわかりました.自分が手がけた建物が,時と共に味わい深くなり,オーナーさんに大切にされていることを知り,とても幸せな気持になりました.
「お宿 かげやま」のその他の画像はこちらです.

2006年06月28日

サッカースタジアム

サッカーワールドカップ・ドイツ大会もベスト8が出そろい一段落付きました.深夜のテレビ観戦でお疲れの方も多いと思います.もう20年近く前になりますが,ドイツのミュンヘンでブンデスリーガの試合を観たことがあります.会場はミュンヘン・オリンピック・スタジアムでした.
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このスタジアムは1972年のミュンヘンオリンピックのために建設された陸上競技場を兼ねた施設です.その後1974年にはサッカーワールドカップドイツ大会の決勝戦,ドイツ対オランダの舞台ともなり,見事地元ドイツが優勝をおさめています.設計はグンタ・ベーニッシュという人らしいのですが,この人についてはよくわかりません.
このスタジアムを訪れたとき最初に驚いたのは,客席の半分くらいに軽快な膜状の屋根がかかっていたことです.何しろそれまでサッカーの試合を観たのは国立競技場くらいですから,観客席に屋根がかかっていることは新鮮でした.今回のワールドカップもこのスタジアムが会場になるのだと思っていたのですが,開幕戦のドイツ対コスタリカの試合が行われたのは新しくつくられたアリアンツ・アリーナでした.調べてみると現在FIFAが定めるワールドカップの会場仕様で,「客席の2/3以上に屋根がかかっていること」という規定があるので,ミュンヘン・オリンピック・スタジアムではだめだったのでしょう.なおかつ陸上競技場を兼ねた施設なので客席とフィールドの間が遠いのも欠点でした.
さて,この新しいアリアンツ・アリーナを設計したのがスイスのヘルツォーク&ド・ムーロンというユニットです.ただこの人達の仕事はこれまでのいわゆる「設計」という行為よりは「建築における総合プロデュース(製作総指揮)」といったほうがいいように私には思われますが,何はともあれ時代の最先端を走っていることは確かです.
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写真の「プラダ・ブティック青山」が日本で見られる彼らの建物です.私も去年東京に行ったときにいってきました.妻が一緒なら中に入ることもできたのでしょうが,その時は一人だったのでさすがにおじけづいて外からだけ見てきました.アリアンツ・アリーナ同様,菱形がデザインのモチーフになっています.なんとも不思議な建築です.

2006年06月27日

椅子いろいろ

旭川シリーズの第3回目・最終回です.二日目は北海道東海大学旭川キャンパスに行って来ました.
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月曜塾の事務局を務める金子さんの母校です.建築学科の大野先生・大矢先生にご案内していただきました.一番最初の写真は大学のメインの建物ですが,全国の他の東海大学同様,山田 守の設計です.山田守といえばお茶の水の聖橋,日本武道館,京都タワーなどが有名ですが,そういえば中央の塔はなんとなく京都タワーを思い起こさせます.山田守の建築はかなり古いものなのに,どこか遠い未来の建築のように感じてしまいます.特に長沢浄水場(1957)の美しさにはため息が出ます.

こちらの大学のすごいところは,さすがに家具の街・旭川にあるせいか,ものすごい椅子のコレクションがあるところです.図書館の展示室には世界の名作椅子がずらりと並んでいます.それ以外にも展示しきれないものがたくさんしまってあるというのだから驚きです.しかも学生さん達が普段利用する図書室にも何気なく名作椅子がおいてあります.(↓図書室)
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何とももったいない・・・との思いがしましたが,考えてみると家具とは見て鑑賞する工芸品ではなく生活と共に使われることが本来なのだからもったいないと思うのは間違いです.ただ,あれを買うと○万円・・・と知っているだけに・・・.
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さらに驚いたのが建築家・宮脇檀の住宅模型が保管されていたことです.一同それを見たとたんにあ然とし,しかも「お貸ししてもいいですよ・・・」のお言葉に色めきだちました.
後日みんなで話し合いましたが,どうにか釧路の設計者がみんなで「宮脇檀建築展」のようなものを開催できればと思っています.
思うに椅子が大好きだった宮脇檀さんだけに,その住宅模型が旭川の地にあるということは,ある意味納得いくことでもあります.

2006年06月24日

無垢材のあたたかさ

旭川は国内でも有数の家具の生産地ですが,今回は旭川家具木工祭ということでたくさんの家具メーカーが商品展示会や工場見学といったイベントを開いている中,カンディハウスに行って来ました.

 同行したのは月曜塾のメンバー計6名で,車2台で朝9時に釧路を出発し,途中「足寄動物化石博物館」を見たりして旭川に到着したのが午後3時ころ.まずはカンディハウスの工場を見学しました.実は3年ほど前にもここの工場を見学させてもらったことがあるのですが,その時は機械の音にかき消されて説明が聞き取れない部分がありました.今回は各自に小さなラジオとイヤホンを渡してくれてそれを通して説明を聞いたのでとてもよくわかりました.夕方からはオープンドアパーティーがあり,最後に担当の根本さんの案内で展示室を見てきました.カンディハウスの家具はナラ材などの木製家具ですが,デザインがとても都会的で洗練されています.
 特に印象に残ったのが新作の「一本技」 というシリーズで,無垢材の一枚物を使ったテーブルなどです.普通このような無垢材の家具は作家性の高い個人の工房のものという思いがありましたが,カンディハウスのようなメジャーなメーカーが作っていることにちょっと驚きました.抜け節や割れを補修したものは値段もお手頃のように思いました.
 無垢材というと,とかく節や割れのないものが重宝がられますが,どんな人にも長所短所の個性があるように,多少節や割れがあってもいいように思います.そしてそれが自然な優しさ・あたたかさでもあると思います.
 

2006年06月23日

最先端のローテク

旭川の北海道立北方建築総合研究所(通称:北総研)に行って来ました.
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 今回旭川に行ったのは月曜塾(釧路の設計事務所の集まり)で旭川家具木工祭を見に行くのが主目的でした.一泊二日しかも片道300キロあまりを車で移動の強行軍でしたが,なかなか充実した旅でした.その内容は順次報告するとして,まずは北総研(ほくそうけん)について.名前の通り寒冷地の建築・都市整備の研究施設です.平成14年にできた建物で,それ自体寒冷地における省エネのためのノウハウが取り入れられてます.ただ旭川は釧路と違って夏の暑さもかなり厳しいところとあって,暑さ対策がかなり施されています.あまり暑くならない釧路とはかなり事情が違います.具体的には冬の間に地下に貯蔵してある水を冷気で氷にしておいて,夏にはその氷があるところを通った冷たい空気を室内に取り入れることによって冷房効果をはかっています.説明を聞きながら,溶けきった水は腐らないのかなぁと思っていたら,年間を通して完全に解けきらないように加減して使うそうです.水温が3度以下だと黴びたり腐ったりしないとのこと.なるほど.
 で,興味深かったのはいろいろハイテクが盛り込まれているのですが,制御に関しては電気的な自動制御ではなく手動のローテクが主だということでした.というのも故障したときの修繕費はなかなか予算が付かないので,故障しにくいシステムにしようと考えたらそうなったそうです.
 考えてみるとコンピューターなどのハイテクは4,5年使えば時代遅れになって更新せざるを得ませんが,建物はもっと寿命が長いもの.一見便利そうな自動制御にあまりたよらず,ローテクで末永く使っていくことも重要だとあらためて思いました.